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虚呂路

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                          やたらと自己分析に耽っていた頃。 今にして思えば、あれは『分析』と同時に『構築』でもあり、きっとあれこそが己の酷く短い思春期だったのだと気付いた今日この頃。
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富士見ファンタジア文庫の「七人の武器屋」で知られている、
大楽絢太さんの新作「テツワンレイダー」が、つい先日に発売された。
遅ればせながら、ようやく手に入れて読み終えたので、軽く感想でも述べてみる。
ネタバレというほどのものはないけれど、批判的な内容なので、あしからず。


序盤の物語への導入は、やや唐突で強引さを感じさせる滑り出しだった。
しかし、これは前作の「七人の武器屋」においても同じことが言えると思うし、
割り切ってしまえばどうということはないので、気にしないことにする。

むしろ問題はそこから先の展開……いや、それでは少し語弊があるか。
全体的なストーリー展開は先が読めるものの、なかなか面白いのだ。
けれども、進み方が駆け足過ぎていて、シーン毎の描写が希薄になっており、
盛り上がりの起伏にも欠け、最初から最後まで淡白な印象しか残らない。

もっと詳しく言うと……前作と比較しても栓の無いことかもしれないが、
例えば「武器屋」では、七人もの個性的な少年少女たちが一挙に登場し、
武器屋の開店に向けて協力したり、問題を前に意見をぶつけ合ったりする過程で、
それぞれのキャラクター性や考え方のスタンスの違いが更に強調されており、
それが七人各々の魅力をより一層引き立てる役割を果たしていたと思う。
お子様経営者であるマーガスたちに、次から次へと押し寄せてくる様々な問題は、
それ自体が物語の勢いを大きく加速させて、中だるみを防止すると共に、
最後まで読み手を強く引っ張り続ける起爆剤にもなっていただろう。

だが「テツワン」では序盤が『一回戦』『二回戦』と区切られており、
しかも、それをただ消化するだけの盛り上がりに欠けるものとなってしまっている。
その後にしても中だるみが激しく、終盤は盛り上がりそうな展開であるはずなのに、
勢いが唐突過ぎるため、読み手は中だるみの気分をそのまま引き摺り続け、
オチが大体予想できることもあって、一向に盛り上がらないまま終了を迎えてしまう。
正直、ストーリー展開が起爆剤としての役目を果たしていないように思う。

そして盛り上がらない理由がもう一つある。
この小説は主人公の一人称なのに、彼の心情がどうにも分からないのだ。
今回の主役は人間不信の引きこもりで、基本的に根暗かつ反抗的な性格をしている。
こういうタイプは、ただでさえ大楽さんの文章とは相性が悪いように感じられる上に、
駆け足展開に引き摺られて、彼の心情が細かく描写される機会は殆ど無いため、
主人公が単なる状況の説明役にしかなっていないような印象を受ける。
当然、主人公であるグレンをネガティブ属性に設定した以上は、
ポジに向かうグレンの心情変化の推移は、肝心な要の部分となってくる筈なのだが、
上記のように描写に乏しく、彼に人間的な厚みや深みがまったく出てこない。
終盤におけるグレンの台詞も、描写の積み重ねが無い故に重みが感じられず、
薄っぺらな軽さを伴った白々しさを覚えてしまわざるを得ないのは致命的だと思う。

脇役にしても、魅力が引き出しきれているとは言い難い。
ただでさえ妙にキッチリと区切られてしまっているシークエンスの中で、
キャラクターが入れ替わり立ち代わりに、申し訳の顔見せ程度にしか現れない。
他人にロクに興味が無い主人公の性質も悪い方向に相まって、
ほぼ全ての登場人物が揃いも揃って印象が薄くなってしまっている。
特に姫と傭兵騎士の扱いに関しては、描写の乏しさが最悪に影響しているだろう。
彼らの描写が不十分なままに、あのような展開にしてしまうのは悲しすぎる。
これではまるで、単純に物語的に不遇のキャラクターだというだけでなく、
書き手から大した意図も無いのに酷くぞんざいな扱いを受けたキャラクターという、
物凄くマイナスで痛ましい印象ばかりが残ってしまうように感じられた。

全体的な設定は好みだし、先行きも気になっているので期待はしたい。
大楽さんらしい雰囲気も感じられるので、今後を楽しみにしたいとは思う。
この微妙さは、伏線張りとかのしがらみに囚われたが故のものだと思いたい。
けれども正直、この一巻の時点では自信を持ってお薦めすることはできません。

……偉そうに色々と言ってしまって、何というか、申し訳なし。
二巻は来年の二月頃らしいので、全力で期待しつつ待ちたいと思います。
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