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虚呂路

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                          やたらと自己分析に耽っていた頃。 今にして思えば、あれは『分析』と同時に『構築』でもあり、きっとあれこそが己の酷く短い思春期だったのだと気付いた今日この頃。
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 ここ最近、今まであまり読んでいなかったSFをよく読んでいる。
 シン・マシンは2004年にハヤカワJコレクションから刊行された作品だ。
 著者は坂本康宏氏。

sinmachine.jpg 体の一部が機械化される奇病MPSに侵された世界。
 人類は突如発生したこの病を食い止めようと躍起になって
 治療法を模索したが、空気感染によって広がるMPSは
 ほぼ全ての人類へと侵食していった。

 だが、この病は特に身体に悪影響を及ぼすことも無く、
 むしろ素晴らしい能力をもたらした。
 MPSランニングと呼ばれるそれは、脳の機械化された部分によって
 罹患者同士があらゆる情報のやり取りが可能となるものであり、
 PCなどの器具は一切必要となくなった。

 いわば、究極の情報化社会の到来である。
 世界はこの能力によって一変し、ウイルスとの共存によって進化する道を
 人類は選択した。
 その一方、強い抵抗力によって罹患することの無かった人々(スタンドアロン)も
 ごく少数ながら存在し、
 彼らは情報の共有が出来ないが故に世界から隔絶され、
 「くだらないスタンドアロン」と差別を受けていた。

 主人公、国東 弾(くにさき だん)はそんなスタンドアロンの一人だ。
 「弾」という名に加えて、物事を一秒以上考えないという性格から
 「鉄砲玉の弾」の異名を持つ。
 雨に包まれた末梢Xという街に住み、何でも屋として危険な仕事をこなしつつ
 どうにか生活を続けている。
 彼がある女性を監視しろという依頼を受けたこと。
 そして双子の弟である魁がある病に冒されたことから物語は広がっていく。

 ……正直、
SFを侮っていたかもしれない。
 好みが分かれる話かもしれないが、自分が読んだSFの中では最も楽しめた。
 二転三転と明かされてはひっくり返る設定には驚嘆せざる負えない。
 戦闘シーンはかなりベタで、しかしそれ故に燃える。
 ただ虫っぽい生物が色々出てきたりして、描写も細かいので、苦手な人は注意。

 
 これは兄弟愛
 ――表現力の乏しい自分はこう書くしかないが、もっと深いモノだろう――
 がテーマの物語であり、生命と機械の境界線の物語でもあると思う。
 更に、著者が生まれて間もなく亡くなった第一子に捧げた物語なのだそうだ。
 本格SFの信奉者には評判が悪かったらしいが、(あまり好まない事だけれど)
 断言しよう。
 これは生命というモノについて深く考えさせてくれる、
 素晴らしい愛と命の作品だ。是非とも読んでもらいたい! 

 追記:シン・マシンを含めた、主にSF作品について
 素晴らしい感想を書かれている猫のゆりかごさんのブログをリンクに追加。

 ……やっぱりもう少し書こう(以下超ネタばれ)


 物語が進むにつれて物語の根底――世界設定そのものがひっくり返るのは、
 私が読んだSFではよく使われていた手法だったし、これもそうだった。

 簡単に説明させていただくと、
 本当の弾は生まれてまもなく死んでいて、今の弾はその赤子のデータを
 コピーしたナノマシンである。世界だと思っていたのは生き残った魁の体内。
 彼は魁の病を治す為に作られたナノマシンなのだ。
 そこに生きる人々は細胞であるから、あらゆるデータの疎通が可能であることは
 確かにうなずける。それが出来ないスタンドアロンは外部の存在である
 ――ナノマシンということだ。
 そして、末梢Xに降る雨は死んだ兄を思う魁の涙ということになる。
 実に良くできた設定だと思う。

 ラストで、同じナノマシンであり機械が生物となる為の条件を求める虫生が、
 弾に魁の肉体で生きるかわりにデータを提供するよう取引を持ちかけられ、
 意図不明だったプロローグをはじめとする全ての謎が明かされる。
 それらに対する弾の思いと答えは、
 鉄砲玉の名に相応しい真っ直ぐなものだと感じ、心を動かされた。

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リンクありがとうございました。

『シン・マシン』、もうだいぶ前に読んだので内容の細部までは覚えていないのですが、強烈に感動したことははっきりと覚えています。

>これは生命というモノについて深く考えさせてくれる、素晴らしい愛と命の作品だ。

激しく同感です。ほんと、そうなんですよね。兄弟愛と簡単に呼んでしまうにはあまりにも深すぎる弾の魁に対する思い・・。最後はいくつものベタな(?)戦いを死にものぐるいで闘ってきたシーンがどっと思い出されてきて、涙が止まりませんでした。
またお邪魔します(^^)
猫のゆりかご URL 2006/10/10(Tue)09:13:35 編集

これはまたご丁寧に

 わざわざ訪れてくださり、ありがとうございます。
 ええっと、そちらに書き込んだHNとここのHNが違っていましたね(汗)。ここを開設するにあたって、この名前を使うことにしたのですが、すっかり忘れてしまっていました。混乱を招いてしまっていたら申し訳ありません。

 少なくとも、関係が深いサイトさんでは変更を伝えなくてはなりませんね。
獅子笑い 2006/10/10(Tue)20:50:07 編集
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